細胞内シグナル伝達とは
細胞シグナル伝達は一般に、細胞表面の受容体タンパク質にリガンド物質が結合することで引き起こされます。これを引き金に、細胞内で連続的に分子間相互作用が起こり、シグナルが秩序正しく増幅・伝達されていきます。その結果、細胞内外に存在する特異的タンパク質の翻訳後修飾や構造変化などが生じ、そのタンパク質の活性や機能が変化します。つまり、細胞内シグナル伝達が秩序正しく時間的・空間的に厳密に制御されることで、遺伝子発現制御や細胞形態の変化などの表現形が規定され、最終的には生体反応が制御されているのです。
細胞内の「いつ、どこで、どの程度、どの」シグナル分子が活性化しているかを解析するのに力を発揮するのが「イメージング」、とりわけ定量的な「蛍光バイオイメージング」です。
Ras-PI3Kシグナルによるエンドサイトーシス制御機構
低分子量Gタンパク質であるRasは、下流で働く複数の標的因子を「いつ、どこで」活性化させるか巧妙に制御することで、シグナル伝達において多彩な役割を担っています。生きた細胞におけるRasとその標的因子が形成する複合体の挙動をBiFC法で可視化したところ、Rasとphosphoinositide 3-kinase(PI3K)の複合体は、他の標的因子とは異なり細胞膜だけでなくエンドゾームにも局在していました(図1)。また、Ras-PI3K複合体が細胞膜からエンドゾームに移行し、エンドゾームから発信するシグナルが、クラスリン非依存性エンドサイトーシスの制御に重要なことも明らかとなりました。
本研究により、これまで細胞膜が主戦場であると考えられてきたRas-PI3Kシグナルにエンドゾームという新たな活躍の場を見出すことができました。この発見は、ダイナミックに変化するタンパク質相互作用を実際に見ることからスタートした成果であり、 “seeing is believing”をまさに体現した好例です。現在は、Ras-PI3Kがエンドゾームに移行するメカニズムを探索しています。
図1 Ras-PI3K複合体はエンドゾームに局在する
BiFC法を用いてRasと標的因子が形成する複合体を可視化した。Ras-PI3K複合体は細胞膜だけでなく、エンドゾームにも局在した。
【関連業績】
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Visualization of Ras-PI3K interaction in the endosome using BiFC. Tsutsumi K, Fujioka Y, Tsuda M, Kawaguchi H, & Ohba Y. Cell Signal. 21: 1672-1679, 2009
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