大学院生 續木惇の一日

9:00 登校

朝8時過ぎに家を出て、子供を保育園に預けてからラボに向かいます。保育園の送りは私、迎えは妻と役割分担しています。家を出る直前に子供が脱糞(笑)したときなどはバタバタして、結局4~5分遅刻してしまうこともあります。

9:30 細胞継代

私は主に内分泌の研究をしていますので、扱う細胞はどれもホルモン分泌能をもつ細胞です。細胞種毎に個性があり、培地や継代方法も異なります。

11:00 個人面談(不定期)

実験が行き詰まっているとき、論文の方向性を決めたいとき、良い結果が得られて喜びを共有したいときなど、不定期に個人面談が実施されます。ときには失敗の連続で、暗澹たる気持ちで過ごしていたとしても、ここで的確なアドバイスをもらい、新たなアイディアが生まれることで、教授室を出る頃には前向きな気持ちで「もう少し頑張ろう」と思えるようになるのです。

12:30 昼食

食事は健康づくりの基本です。健康なくして優れた研究はできないという信念のもと、どんなに忙しいときでも昼食はしっかり摂取しています。時節柄、パーティションで区切られた自席で黙食していますが、以前のようにセミナー室で雑談しながら皆で食事を取れる日が来てほしいものです。

13:30 顕微鏡観察

全反射照明蛍光顕微鏡 (total internal reflection fluorescence microscopy: TIRFM) を使ってホルモン分泌の様子を定量・解析しています。サンプル数が多いときは4~5時間連続で観察を行うこともあります。自分の好きなことをやっているときは時間の感覚がなくなっていますので、長時間の観察も決して苦ではありません。

19:00 下校

実験予定が押しているときや、論文提出期限間近のときなどは遅くなることもありますが、概ね19時頃までには帰宅して、家族の時間を持つようにしています。独身の頃はダラダラと21~22時まで残っていたこともありますが、限られた時間の中で1日のスケジュールを組み立て、時間を逆算しながら必要な実験を終わらせるという、時間を有効に使うテクニックは多少上手くなってきたような気がします。

續木さん 一問一答

Q1:研究を始めたきっかけは?

こんなところで優等生ぶってもつまらないので、正直に書きます。最初は「周りがみんな大学院に行く」とか、「在学中は地方に飛ばされなくて済む」とかいう不純な動機でした。医師免許取り立ての頃から、「将来は何かの研究をして、とりあえず皆と同じく学位を取っておけば安心」と思っていました。真面目に研究者を目指す人が見ると怒られるかもしれませんが、医師5年目で大学病院に戻るタイミングで何となく院に入った、というのが実際のところです。

Q2:細胞生理学教室を選んだ理由は?

これも正直に書きますが、自発的に選んだわけではありません。もともと私は内科Ⅱ(現 糖尿病・内分泌内科、通称2内)の所属で、2内のラボで研究することもできたのですが、何となく人と違うことがしたいと思い、基礎系教室への学内留学を希望しました。道産子の高校3年生が、何となく1人暮らしをしてみたいと思って道外の大学を受験する感覚と似ています。基礎研究に専念できる環境で、生活習慣病の研究がしたいという希望を汲んで、2内の渥美教授から細胞生理学教室を紹介していただいたのが最初の接点です。

Q3:細胞生理学教室に来て良かったことは?

これといった志も持たずに「臨床から突然やってきた謎の人物」を温かく迎え入れ、一研究者としてしっかり育ててくださったことです。これは言葉で表現できない、教室の雰囲気がそうさせたのだと思いますが「何となく学位が取れればいいや」という甘い考えは吹き飛び、自分のやりたい研究は何か?それを突き詰める目的は何か?その実現のために取るべき方法は何か?そういったことを真剣に考えるようになり、研究者として必要な思考回路が自然と身に付いていきました。

Q4:研究を行ううえで大変だったことは?

研究と仕事、家庭の両立です。臨床の業務がある分、他のメンバーと比べると1週間の中でラボにいる時間が短く、時間のかかる実験はより計画的に行う必要がありました。院生の間くらいは臨床から離れて研究に専念してはどうか?というご意見もあると思いますが、臨床のキャリアにブランクができてしまうと、診療の感覚を取り戻すのはかなり大変です。微力ながら臨床医としての社会貢献がしたいという思いもありますし、現実問題、家族を養うだけの収入も必要です。少なくとも細胞生理は、個々人の背景を十分に考慮してくれるので、働きながらでも研究しやすい環境であったと思います。

Q5:後輩に送るメッセージ

細胞生理では、たとえ院生であっても独立した研究者として扱われます。私の場合、研究に取り組むうえでの原動力のひとつは「反骨精神」であり、その分野の権威が「できない」と言ったことにはあえて挑戦してみたくなります。自ら進んで「これがやりたい」と言えば、(その実現に向けた道筋を科学的根拠に基づき説明できさえすれば)たいてい前向きに応援してくれます。上司の研究を手伝うようなスタンスで、実験計画も方法も、考察の道筋も全て与えてくれるところのほうが初心者にははるかに「ラク」だとは思いますが、その後の成長の見込みは言わずもがなです。せっかく大学院に入るなら、自主的な研究者になれるラボで研究するほうが楽しく、今後の人生の糧になるのではないでしょうか。

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