Clinical Application

FRETバイオセンサーの臨床応用
〜光診断薬の開発と事業化〜

蛍光バイオイメージングは、生きた細胞内でタンパク質間相互作用やタンパク質の構造変化を、高感度かつ定量的に測定することが可能な技術です。私たちの研究室では、この特長を活かして、蛍光タンパク質のイメージングを臨床検査に応用することを目指しています。

慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)は、骨髄の造血幹細胞に異常染色体(フィラデルフィア染色体, Ph1)が形成され、白血病の原因タンパク質BCR-ABLが細胞内に出現し発症する血液のがんです。BCRーABLチロシンキナーゼに対する3種類の分子標的治療薬が標準治療に使われています。
しかし、患者さんごとにどの薬が有効なのか、実際に治療を始めてみるまでは分からないことが課題となっています。治療前から個々の患者さんに対して薬の有効性を判定したり、治療中に薬剤耐性細胞の有無を検出したりする技術があれば、はじめから効果的な治療を行うことができます。

bio_sensor01

図1 BCR-ABL活性測定センサーPickles
BCR-ABLの基質であるCrkLはリン酸化されると構造変化する。CrkLの両端にYFP(Yellow fluorescent protein, 黄色蛍光タンパク質)とCFP(Cyan fluorescent protein, 青色蛍光タンパク質)を付けることで、BCR-ABLの活性に応答してFRETが生じるセンサーの開発に成功した。

私たちはBCR-ABLの基質CrkLとFRETの原理を利用したバイオセンサー Pickles(Phosphorylation indicator of CrkL en substrate、図1)を開発しました。また、それを用いることで、実際に患者さんから採取したCML細胞がどのような薬剤反応性を示すかを一細胞レベルで解析することを可能にしました(図2)。

bio_sensor02

図2 Picklesによる薬効評価プロセス
患者さまから得た血球から、単核球分画を単離し、Picklesを導入する。24時間後にはセンサー分子の蛍光が観察可能であり,顕微鏡で一つ一つのFRET効率を測定できる。薬剤処理後にすべての細胞でBCR-ABLの活性が抑制(FRET低)されていれば薬剤が有効、抵抗性の場合にはFRETの高い細胞が残存する。

本技術を治療前のCML患者さんに用いることで、有効な分子標的治療薬を実際に予測できるようになりました。これにより、個々の患者さんにフィットした治療薬をあらかじめ選択できると考えられます。また本手法には「細胞を生きたまま解析する」という、これまでの検査にはない特長があります。つまり、薬剤耐性細胞のみを集めることも可能なことから、薬剤耐性獲得機構の解明へ発展させることも期待できます。
さらに、他のキナーゼ活性を測定する光診断薬を開発することで、理論的には分子標的治療薬を用いるすべてのがんに応用拡大が可能です。

本研究は、科学技術振興機構(JST)の「社会還元加速プログラム(SCORE)」(2019年度)、テルモ生命科学振興財団の「研究開発助成(開発助成)」、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「研究開発型スタートアップ支援事業/NEDO Entrepreneurs Program(NEP)タイプB」(2021年度)のご支援をいただき、一日も早く患者さまの手元に本技術が届くように、事業化を目指しています。
詳しくはHILO株式会社のページをご覧ください。

【関連業績・参考文献】

  • A novel FRET-based biosensor for the measurement of BCR-ABL activity and its response to drugs in living cells. Mizutani T, Kondo T, Darmanin S, Tsuda M, Tanaka S, Tobiume M, Asaka M, & Ohba Y*. Clin. Cancer Res. 16(15): 3964-3975, 2010

Commentary on this paper: Clin. Cancer Res. 16(15): 3822-3824 (2010)

  • Improved FRET biosensor for the measurement of BCR-ABL activity in chronic myeloid leukemia cells. Horiguchi M, Fujioka M, Kondo T, Fujioka Y, Li X, Horiuchi K, Satoh A, Nepal P, Nishide S, Nanbo A, Teshima T, and Ohba Y*. Cell Struct Funct 42, 15-26, 2017
  • Pre-treatment evaluation of FRET-based drug sensitivity test for patients with CML treated with dasatinib. Kondo T, et al, Cancer Sci. 109(7): 2256-2265, 2018
  • Clinical efficacy and safety of first-line nilotinib therapy and evaluation of the clinical utility of the FRET-based drug sensitivity test. Kondo T, et al. Int. J. Hematol. 110(4): 482-489, 2019
  • シグナル伝達研究2008-’09 ―疾患発症の分子メカニズムと実現化する分子標的薬開発―細胞内シグナル伝達の可視化とその創薬への応用   大場雄介、津田真寿美   実験医学 25(15)(増刊): 206-213 (2506-2513), 2008
  • バイオイメージングの基礎と応用   津田真寿美、 大場雄介細胞 41(11): 462-463, 2009
  • プレスリリース
  • 報道
    • ネットワークニュース北海道(NHK、7/29)
    • 道新ニュース(テレビ北海道、7/31)
    • 北海道新聞(7/30朝刊)
    • 読売新聞(7/29朝刊)
    • 毎日新聞(7/30朝刊)
    • ロイター通信
    • BTJ アカデミック 7/29のアクセスランキング1位!

 

細胞生理の他の研究についてはこちらをご覧ください。