細胞内シグナル伝達とは

細胞シグナル伝達は一般に、細胞表面の受容体タンパク質にリガンド物質が結合することで引き起こされます。これを引き金に、細胞内で連続的に分子間相互作用が起こり、シグナルが秩序正しく増幅・伝達されていきます。その結果、細胞内外に存在する特異的タンパク質の翻訳後修飾や構造変化などが生じ、そのタンパク質の活性や機能が変化します。つまり、細胞内シグナル伝達が秩序正しく時間的・空間的に厳密に制御されることで、遺伝子発現制御や細胞形態の変化などの表現形が規定され、最終的には生体反応が制御されているのです。

細胞内の「いつ、どこで、どの程度、どの」シグナル分子が活性化しているかの解析に力を発揮するのが「イメージング」、とりわけ定量的な「蛍光バイオイメージング」です。私たちの研究室では、主に以下の蛍光バイオイメージング技術を用いて研究を行っています。

蛍光タンパク質

緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein, GFP)は、オワンクラゲの発光器官から単離された「光る」タンパク質です。1992年にそのcDNAがクローニングされて以来、各種細胞に蛍光物質を導入できるようになりました。細胞内のダイナミックなタンパク質動態や環境変化の可視化に汎用されています。

なお、このタンパク質の発見と応用によって、下村脩博士は2008年、日本人で5人目となるノーベル化学賞を受賞されました。

FRET

フェルスターの共鳴エネルギー移動(Förster resonance energy transfer, FRET)は、二つの蛍光分子間でエネルギーが移動する現象です。GFPの変異体を用いる場合にはシアン色変異体(CFP)と黄色変異体(YFP)がよく用いられ、CFPとYFPが近接した場合にのみCFPからYFPへのFRETが生じます(図1)。生きた細胞内でタンパク質間相互作用やタンパク質の構造変化や活性化を、高感度かつ定量的に測定することが可能です。

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図1 FRETの原理
CFPは通常440 nmの励起光で480 nmの蛍光を発する。ここにエネルギー受容体であるYFPが近接していると、エネルギー遷移が生じ、同じ440 nmの励起光に対してYFPの蛍光(530 nm)が認められる。480と530 nmの蛍光強度比を指標にCFPとYFPの距離を知ることができる。

BiFC

EGFPは240個ほどのアミノ酸からり、図2の左のようなベータバレル構造をしています。それを適当な位置で切断すると各々のタンパク質は光を発しません(図2左)。しかし両者が結合した時は完全な構造が形成され蛍光を発します(図2右)。これが、蛍光タンパク質再構成法(bimolecular fluorescence complementation, BiFC)です。

相互作用を調べたいタンパク質にそれぞれを結合することでその結合を観察することができます。結合の増加が単に蛍光強度の増強で検出できる単純さがあり、GFPを用いれば通常の蛍光顕微鏡に備え付けのFITCフィルターだけで観察可能です。また、相互作用が単色で検出可能な点は魅力的で、複数の分子間相互作用の同時観察も容易に行えます。

bifc

図2 BiFCによる分子間相互作用の検出原理
蛍光タンパク質YFP(Venus)をN末とC末側に分断すると(図では172-173アミノ酸)、蛍光は発しない。それぞれに結合が期待される二つのタンパク質AとBを融合する。AとBの結合がVenusの構造の再構成を起こし蛍光を発するため、タンパク質間相互作用が蛍光強度の増加として観察される。

蛍光バイオイメージングを用いた研究はこちら

【関連業績】

Visualization of Ras-PI3K interaction in the endosome using BiFC. Tsutsumi K, Fujioka Y, Tsuda M, Kawaguchi H, Ohba Y. Cell Signal 21: 1672-1679, 2009