オルガネラとは

真核細胞は細胞内小器官(オルガネラ)を持っています。それぞれのオルガネラは高度に専門化された役割を担っています。例えば、ミトコンドリアは、食物などから得たエネルギーを酸化的リン酸化反応によってATPという細胞が使用できる形のエネルギーに変換します。エンドソームは細胞外に存在する栄養素や様々な物質を取り込む役割を担っています。

最近の研究から、別の機能を持つオルガネラ同士が膜を介して接触し、情報伝達を行って新しい機能を発揮することなどが分かってきました。私たちは、独自に開発したオルガネラの観察ツールを活用し、蛍光イメージング技術を用いて、細胞内で繰り広げられる生命現象の可視化や、疾患メカニズムの解明に挑んでいます。

Ras-PI3Kシグナルによるエンドサイトーシス制御機構

低分子量Gタンパク質であるRasは、下流で働く複数の標的因子を「いつ、どこで」活性化させるか巧妙に制御することで、シグナル伝達において多彩な役割を担っています。生きた細胞におけるRasとその標的因子が形成する複合体の挙動をBiFC法で可視化したところ、Rasとphosphoinositide 3-kinase(PI3K)の複合体は、他の標的因子とは異なり細胞膜だけでなくエンドゾームにも局在していました(図1)。また、Ras-PI3K複合体が細胞膜からエンドゾームに移行し、エンドゾームから発信するシグナルが、クラスリン非依存性エンドサイトーシスの制御に重要なことも明らかとなりました。
本研究により、これまで細胞膜が主戦場であると考えられてきたRas-PI3Kシグナルにエンドゾームという新たな活躍の場を見出すことができました。この発見は、ダイナミックに変化するタンパク質相互作用を実際に見ることからスタートした成果であり、 “seeing is believing”をまさに体現した好例です。現在は、Ras-PI3Kがエンドゾームに移行するメカニズムを探索しています。

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図1 Ras-PI3K複合体はエンドゾームに局在する
BiFC法を用いてRasと標的因子が形成する複合体を可視化した。Ras-PI3K複合体は細胞膜だけでなく、エンドゾームにも局在した。

【関連業績】

Visualization of Ras-PI3K interaction in the endosome using BiFC. K. Tsutsumi, Y. Fujioka, M. Tsuda,H. Kawaguchi, Y. Ohba. Cell Signal. 21: 1672-1679, 2009

The Ras–PI3K Signaling Pathway Is Involved in Clathrin-Independent Endocytosis and the Internalization of Influenza Viruses. Y.Fujioka, M. Tsuda, T. Hattori, J. Sasaki, T. Sasaki, T. Miyazaki & Y. Ohba. PLoS ONE 6: e16324, 2011

北大によるプレスリリース記事
Nature Asia

エンドサイトーシスを介したウイルス侵入機構

Ca2+シグナルを介したインフルエンザウイルスの宿主細胞侵入機構

多くのウイルスは細胞に侵入する際に細胞が持つエンドサイトーシス機構を利用します。例えばインフルエンザはクラスリン依存性エンドサイトーシスで細胞に侵入すると言われていました。しかし、私たちの研究から、Ras-PI3Kシグナルの活性化を介して、クラスリン非依存性エンドサイトーシスでも侵入可能なことが証明されました。また、その際に細胞内カルシウム濃度の上昇を引き金に、Ras-PI3Kシグナルを活性化することが明らかとなりました(図2)。さらに解析を進めると、ウイルスが感染した時に生じるカルシウム濃度上昇をきっかけに、Ras-PI3Kシグナルのみならず様々なシグナルネットワークが発動し、種々のエンドサイトーシスが促進することが分かりました(図3)。

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図2 ウイルス感染による細胞内カルシウムイオン濃度の一過性上昇
培養細胞にカルシウム濃度をモニターするFRETセンサーを発現させ、ウイルス感染後のカルシウム動態を生きた細胞において観察した。感染直後に、複数回に渡るカルシウムの一過的上昇が起こった。

すなわち、インフルエンザウイルスは宿主細胞内カルシウム濃度など、細胞内シグナル伝達機構を乗っ取ることで、細胞内に侵入しやすい環境を作り出しているというモデルが考えられます。本研究のように、ウイルスを用いて細胞の機能を探求することにより、これまでは明らかではなかった細胞に潜むメカニズムの解明が加速するものと期待されます。

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図3 カルシウムシグナルを介したインフルエンザウイルスの侵入機構
インフルエンザウイルスは細胞に吸着するとすぐさま、カルシウム濃度上昇→RhoA活性化→カルシウム濃度上昇というシグナルを発動させ、エンドサイトーシスを亢進することで効率的に細胞に侵入する。

【関連業績】

A Ca2+-dependent signalling circuit regulates influenza A virus internalisation and infection. Y. Fujioka, M. Tsuda, A. Nanbo, T. Hattori, J. Sasaki, T. Sasaki, T.
Miyazaki, and Y. Ohba. Nat. Commun. 4: 2763, 2013

北大によるプレスリリース記事
Yahooニュース
北海道のニュース・気象情報、ネットワークニュース北海道(ともにNHK、11/14)

A Voltage-Dependent Ca2+ Channel Participates in Influenza A Virus Entry into Mammalian Cells. Fujioka Y, Nishide S, Ose T, Suzuki T, Kato I, Fukuhara H, Fujioka M, Horiuchi K, Satoh A, Nepal P, Kashiwagi S, Wang J, Horiguchi M, Sato Y, Paudel S, Nanbo A, Miyazaki T, Hasegawa H, Maenaka K, Ohba Y. Cell Host Microbe 23: 809-818, 2018

Previews
北大によるプレスリリース記事

ライフサイエンス新着論文レビュー
マイナビニュース
読売新聞
日刊工業新聞
This week in Virology
Asia Research News

オルガネラマーカーライブラリの構築

様々なオルガネラを生きた細胞において可視化するためのマーカーを作製しております。現在作製済みのものとしては、核、細胞膜、アクチン、微小管、接着斑、ミトコンドリア、初期エンドゾーム、後期エンドゾーム、リサイクリングエンドゾーム、ゴルジ装置、小胞体です。それぞれのオルガネラに対して、Sirius(群青)、SECFP(シアン)、EGFP(緑)、Venus(黃)、tdTomato(赤)、TFP650(近赤外)、Keima(青色励起で赤色蛍光)等の蛍光タンパク質が融合したコンストラクトを作製し、マーカーライブラリを構築しております。

ミトコンドリアマーカーやエンドソームマーカーに、フォールディングが早い(すなわち「明るい」)蛍光タンパク質を融合させると、本来の局在化が阻害され、細胞質や核に漏れるので注意が必要です。

【関連業績】

Folding latency of fluorescent proteins affects the mitochondrial localization of fusion proteins. Kashiwagi S, Fujioka Y, Satoh AO, Yoshida A, Fujioka M, Nepal P, Tsuzuki A, Aoki O, Paudel S, Sasajima H and Ohba Y. Cell Struct. Funct. 44: 183-194, 2019

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