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蛍光バイオイメージングによる細胞機能の解析

 

Ras-PI3Kシグナルによるエンドサイトーシス制御機構

低分子量Gタンパク質であるRasは、下流で働く複数の標的因子を「いつ、どこで」活性化させるか巧妙に制御することで、シグナル伝達において多彩な役割を担っています。生きた細胞におけるRasとその標的因子が形成する複合体の挙動をBiFC法で可視化したところ、Rasとphosphoinositide 3-kinase (PI3K)の複合体は、他の標的因子とは異なり細胞膜だけでなくエンドゾームにも局在していました(図1)。また、Ras-PI3K複合体が細胞膜からエンドゾームに移行し、エンドゾームから発信するシグナルが、クラスリン非依存性エンドサイトーシスの制御に重要なことも明らかとなりました。
本研究により、これまで細胞膜が主戦場であると考えられてきたRas-PI3Kシグナルにエンドゾームという新たな活躍の場を見出すことができました。この発見は、ダイナミックに変化するタンパク質相互作用を実際に見ることからスタートした成果であり、 “seeing is believing”をまさに体現した好例です。現在は、Ras-PI3Kがエンドゾームに移行するメカニズムを探索しています。

 

ras_pi3k 図1 Ras-PI3K複合体はエンドゾームに局在する BiFC法を用いてRasと標的因子が形成する複合体を可視化した。Ras-PI3K複合体は細胞膜だけでなく、エンドゾームにも局在した。

 

【関連業績】

  • Visualization of Ras-PI3K interaction in the endosome using BiFC. K. Tsutsumi, Y. Fujioka, M. Tsuda,H. Kawaguchi, Y. Ohba. Cell Signal. 21(11): 1672-1679 (2009)
  • The Ras–PI3K Signaling Pathway Is Involved in Clathrin-Independent Endocytosis and the Internalization of Influenza Viruses. Y.Fujioka, M. Tsuda, T. Hattori, J. Sasaki, T. Sasaki, T. Miyazaki & Y. Ohba. PLoS ONE 6(1): e16324 (2011)

 

 

エンドサイトーシスを介したウイルス侵入機構

Ca2+シグナルを介したインフルエンザウイルスの宿主細胞侵入機構

多くのウイルスは細胞に侵入する際に細胞が持つエンドサイトーシス機構を利用します。例えばインフルエンザはクラスリン依存性エンドサイトーシスで細胞に侵入すると言われていました。しかし、私たちの研究から、RasーPI3Kシグナルの活性化を介して、クラスリン非依存性エンドサイトーシスでも侵入可能なことが証明されました。また、その際に細胞内カルシウム濃度の上昇を引き金に、Ras-PI3Kシグナルを活性化することが明らかとなりました(図1)。さらに解析を進めると、ウイルスが感染した時に生じるカルシウム濃度上昇をきっかけに、Ras-PI3Kシグナルのみならず様々なシグナルネットワークが発動し、種々のエンドサイトーシスが促進することが分かりました(図2)。

すなわち、インフルエンザウイルスは宿主細胞内カルシウム濃度など、細胞内シグナル伝達機構を乗っ取ることで、細胞内に侵入しやすい環境を作り出しているというモデルが考えられます。本研究のように、ウイルスを用いて細胞の機能を探求することにより、これまでは明らかではなかった細胞に潜むメカニズムの解明が加速するものと期待されます。

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図2 ウイルス感染による細胞内カルシウムイオン濃度の一過性上昇 培養細胞にカルシウム濃度をモニターするFRETセンサーを発現させ。ウイルス感染後のカルシウム動態を生きた細胞において観察した。感染直後に、複数回に渡るカルシウムの一過的上昇が起こった。

 

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図3 カルシウムシグナルを介したインフルエンザウイルスの侵入機構 インフルエンザウイルスは細胞に吸着するとすぐさま、カルシウム濃度上昇→RhoA活性化→カルシウム濃度上昇というシグナルを発動させ、エンドサイトーシスを亢進することで効率的に細胞に侵入する。

 

【関連業績】

  • The Ras–PI3K Signaling Pathway Is Involved in Clathrin-Independent Endocytosis and the Internalization of Influenza Viruses. Y.Fujioka, M. Tsuda, T. Hattori, J. Sasaki, T. Sasaki, T. Miyazaki & Y. Ohba. PLoS ONE 6(1): e16324 (2011)
  • A Ca2+-dependent signalling circuit regulates influenza A virus internalisation and infection. Y. Fujioka, M. Tsuda, A. Nanbo, T. Hattori, J. Sasaki, T. Sasaki, T.
    Miyazaki, and Y. Ohba. Nat. Commun. 4: 2763 (2013)

 

【関連情報】

 

 

マクロピノサイトーシスを介したエボラウイルスの宿主細胞侵入機構

ネガティブ1本鎖RNAウイルスに属するエンベロープウイルスであるエボラウイルスは、極めて高い病原性を有し、高い致死率を伴う重篤なエボラ出血熱を惹起することが知られており、早急に制圧されなくてはならない世界的な感染症の一つであるにも関わらず、現時点では有効な予防、治療法が確立されていません。現時点において、このウイルスの集団感染はアフリカに限定されていますが、昨今の世界的な交通網の発達を考慮すると、将来我が国においても生じる可能性は否めません。また、エボラウイルスの増殖を伴う作業には最高度安全実験施設(バイオセーフティレベル4)を必要とします。このことはエボラウイルス研究発展の障壁となっており、基本的なエボラウイルスの生活環においてもその多くは謎に包まれているというのが現状です。

エボラウイルス粒子はこれらのウイルスと比較して巨大且つひも状の特異的な形態を有することから(図1)、どのような経路を介して細胞内に取り込まれるのかについては非常に興味が持たれていましたが、その詳細については明らかにされていませんでした。一般的な実験室レベルでも取扱うことができる野生型エボラウイルス粒子の形態を保持した非感染性エボラウイルス様粒子を蛍光標識し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて生きた細胞へのウイルス粒子の取込みをリアルタイムでモニタリングする系を開発しました。さらに、種々の細胞内小器官特異的なマーカータンパク質にGFPを融合し、発現させた細胞を用いてエボラウイルスがどの経路を介して侵入するのか検証しました(図1)。

 

今回開発した系を用いた解析によって、エボラウイルス粒子はエンドサイトーシス経路の1つであるマクロピノサイトーシスを介して宿主細胞に効率良く取り込まれることを世界に先駆けて明らかにしました。さらに、マクロピノサイトーシスの誘導によって形成される小胞(マクロピノソーム)に取り込まれたウイルス粒子はマクロピノソームの成熟に伴い、エンベロープと小胞膜との膜融合が生じることを明らかにし、これに引き続いてウイルスの増殖が惹起されることが示唆されました。さらにエボラウイルスのマクロピノサイトーシスを介する侵入にはウイルス粒子上に突出している糖タンパク質が必須であることが分かりました(図2)。

今後の展開として、エボラウイルスが細胞に侵入する過程、特にこのステップに関与する宿主因子を標的としたエボラウイルス感染の予防あるいは治療に役立つ有効な抗ウイルス薬の開発に貢献することが期待されます。また、今回開発した生細胞でのモニタリング系によって、種々の薬剤がウイルス侵入のどの過程を阻害するのかを容易に同定することが可能となり、この系は今後の抗ウイルス薬のスクリーニングシステム開発においても役立つものと考えられます。

Real-time monitoring of Ebolavirus entry図1 細胞間接触を介した上皮細胞へのEBV感染モデルウイルス
感染B細胞と上皮細胞の細胞間接触を介して、両者に種々の細胞内情報伝達系の活性化が生じ、また、この過程において接着因子が関与することを証明しました。現在、上皮細胞へのEBV感染メカニズムとして、EBV感染B細胞と上皮細胞が細胞間接触を介して近接することで、感染細胞由来エキソソームが上皮細胞に取り込まれ、接着因子の発現誘導を引き起こすことで、上皮細胞へのウイルス感染が促進するというモデルを想定しています。
 

 

Hypothetical model of GP- and size-dependent viral entry

図2 今回明らかになったエボラウイルス粒子の宿主細胞への侵入メカニズム1.エボラウイルス粒子のエンベロープ上の糖タンパク質が細胞上の未知の受容体に結合することで細胞に刺激が伝達され、2.マクロピノサイトーシスが誘導される。3.マクロピノサイトーシスに伴い形成される小胞(マクロピノソーム)に取り込まれたウイルス粒子は、4.小胞の成熟の過程で糖タンパク質の立体構造が変化することで、そのエンベロープと小胞膜が融合し、5.粒子内のヌクレオカプシドが放出し細胞内でのウイルス増殖が始まる。

 

 

【関連情報】

 

 

異種細胞間シグナル伝達機構

ヒトγ-ヘルペスウイルスに属するEpstein­-Barrウイルス(EBV)は成人の90%以上に感染が認められる普遍的なウイルスで、B細胞および上皮細胞特異的に感染します。EBVは一部の例において、様々ながんと関連することが知られていますが、このウイルスがどのようにがんを引き起こすかについては、まだ明確ではありません。私たちは、細胞間コミュニケーションという観点から、EBV関連疾患の発症メカニズムを理解することを目指しています。

 

①EBV感染細胞が放出するエキソソームの機能解析

新たな細胞間コミュニケーション媒体の1つとして注目されている細胞外小胞エキソソームは様々な細胞種から放出され、これらが内包する様々な因子を標的細胞へ輸送することで多様な生理機能を示します。近年、がんを始めとした様々な疾患とエキソソームとの関連に注目が集まっています。また、がん細胞からのエキソソーム放出量が増強していることや、ある種のがん細胞から放出されるエキソソームに特異的な腫瘍マーカーが含まれていることから、新たなバイオマーカーとしての可能性も期待されています。

私たちは最近、EBV感染B細胞から放出されたエキソソームが非感染上皮細胞へ取り込まれ、細胞増殖および接着因子発現が亢進されることを世界に先駆けて明らかにしました。この結果は、ウイルス感染細胞が放出するエキソソームが、内包する何らかの生理活性因子を周縁の標的細胞に輸送することで、ウイルス感染の維持やがん化の進展に積極的に働きかける可能性を示唆するものです。今後は、EBV感染細胞が放出するエキソソームの標的細胞における役割を分子レベルで明らかにすることで、EBV関連がんの発症メカニズムの解明、さらにこれらの疾患に関与する新たなバイオマーカーの探索、あるいは治療ターゲットとなる標的分子の同定など、様々な面において医療に貢献する可能性が期待されます。

 

②細胞間接触を介するEBV感染機構の解明

上皮細胞へのEBV感染は、ウイルス感染B細胞と上皮細胞の細胞間接触を介して媒介される可能性が示されていますが、その分子機構の詳細はまだ明確ではありません。私たちは、細胞間接触を介した上皮細胞へのEBV感染において、様々な細胞内情報伝達系が関与すること、また、この過程において、種々の宿主由来の接着因子が関与することを証明しました。現在、上皮細胞へのEBV感染メカニズムとして、EBV感染B細胞と上皮細胞が細胞間接触を介して近接することで、感染細胞由来エキソソームが上皮細胞に取り込まれ、その後、接着因子の発現誘導の惹起により、上皮細胞へのウイルス感染が促進する、というモデルを提唱し(図1)さらに詳細な解析を進めています。

Hypothetical model of cell-to-cell contact-mediated EBV transmission

図1 ウイルス感染B細胞と上皮細胞の細胞間接触を介して、両者に種々の細胞内情報伝達系の活性化が生じ、また、この過程において接着因子が関与することを証明しました。現在、上皮細胞へのEBV感染メカニズムとして、EBV感染B細胞と上皮細胞が細胞間接触を介して近接することで、感染細胞由来エキソソームが上皮細胞に取り込まれ、接着因子の発現誘導を引き起こすことで、上皮細胞へのウイルス感染が促進するというモデルを想定しています。

 

【関連業績】

  • Nanbo A, Terada H, Kachi K, Takada K, Matsuda T : Roles of Cell Signaling Pathways in Cell-to-Cell Contact-Mediated Epstein-Barr Virus Transmission, Journal of Virology, 86, 9285-9296 (2012)
  • Iizasa H, Nanbo A, Nishikawa J, Yoshiyama H:EBV-associated Gastric Carcinoma, Viruses,  4, 3420-3439 (2012)
  • Nanbo A, Kawanishi E, Yoshida R, Yoshiyama H : Exosomes derived from Epstein-Barr virus-infected cells are internalized via caveolae-dependent endocytosis and promote phenotypic modulation in the target cells. Journal of Virology, 87, 10334-1034 (2013)

 

生体リズムのシグナル伝達機構

睡眠覚醒やホルモン分泌など、多くの生理現象は約24時間周期のリズム(概日リズム)を示します。時計遺伝子はそのタンパク質産物が自身の転写因子を抑制することによる負のフィードバックにより周期的に転写されると考えられており、同じ転写因子が他のさまざまな遺伝子を周期的に転写促進することにより細胞のリズムが作られます。哺乳類のリズム中枢である視床下部視交叉上核は昼夜サイクルに同調してリズムが変化し、また全身の組織は視交叉上核からの周期的な刺激に同調するなど、細胞リズムは環境の周期的変化に合わせて時刻を調節しています。近年、遺伝子やタンパク質の量的な変化のリズムだけではなく、リン酸化・脱リン酸化のリズムなど転写翻訳を介さないリズムもあることがわかってきました。当研究室では分子の局在や相互作用など質的なリズムを、ライブセルイメージングを用いて観察することに挑戦しています。

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図4 リズム発振の分子メカニズム

 

①時計タンパク質の細胞内局在、相互作用の可視化
時計タンパク質の機能は多量体・二量体形成、細胞内局在、リン酸化等の修飾により変化し、調節されている。蛍光タンパク質を利用し、24時間周期の変化を生きた細胞で観察します。

②リズム調節刺激による時計遺伝子フィードバック変化の観察
細胞膜上の受容体に刺激を加えたのちに活性化、局在変化する細胞内シグナルタンパク質と時計タンパク質の相互作用を観察します。

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